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くも膜下出血

くも膜とは脳を保護する膜(3層あり、外側より硬膜、くも膜、軟膜といいます)の一つであり、くも膜と脳の間(くも膜下腔)には脳の栄養血管が走行し、脳の保護液である脳脊髄液も循環しています。この、くも膜下腔を走行する脳血管が破れる為にくも膜下出血と言います。一般に、くも膜下出血の患者さんのうち約1/3の方は出血と同時に死亡してしまう、又は何とか病院には運ぶことができたものの重症の為に死亡するか寝たきりの状態になってしまうといわれています。また、約1/3の方が何らかの後遺症を残され、残りの1/3の方は順調に経過してご自宅に退院、社会復帰を果たされるといわれています。

この先は実際の手術写真が含まれている場合がございます。このような写真で気分が悪くなるような方はご覧になるのはご遠慮ください。

症状

そのほとんどの方は頭痛を主訴としています。

  1. 突然の頭痛
  2. 瞬間的に起こる頭痛
  3. 今までに体験したことの無い様な頭痛
  4. バットで殴られた様な頭痛
  5. 激しい頭痛

などを感じます。
病気の程度によりますが、頭痛とともに嘔吐したり、重篤な方では意識が無くなったりすることがあります。突然、頭を抱えて頭痛を訴えた後で倒れてしまった人を目の前にしたら、くも膜下出血と決めて救急車を呼ぶべきであるぐらい、特徴的な所見と言えます。
くも膜下出血の場合、運動麻痺などは必ず起こるとは限りません。他の脳卒中の多くが、頭痛を感じない事や半身の運動麻痺を伴う事が多い事などと比べて対照的です。

原因

そのほとんど(80~90%)はくも膜の下を走行する脳動脈瘤と呼ばれる動脈のこぶからの出血と考えられています。
脳動脈瘤の多くは、脳動脈の枝分かれの部分に出来ることが知られています。脳動脈瘤は、大きくなり過ぎて、周りの神経や脳の圧迫症状で発見される事もありますが、破れる瞬間まで無症状である事がほとんどです。その他のくも膜下出血の原因としては、生まれつきの脳血管の奇形による脳動静脈奇形(脳動静脈奇形について参照)、中には原因が突き止められない場合(脳の小動脈、小静脈からの出血で検査をしても原因血管がわからない)もあります。

検査

まず、症状で判断し、くも膜下出血が疑われた場合は、CTスキャンによる検査が行われます。くも膜下出血を起こすと、必ず脳脊髄液に血液が混ざる為に、特徴的なCT所見が確認されます。(図1)

図1:頭部CT所見, 矢印の白い部分がくも膜下出血です。

くも膜下出血と診断したら、破けた血管(脳動脈瘤)がどこにあるか調べるため当院では、カテーテルを用いた脳血管撮影を行います。この検査は脳動脈瘤の部位、形状、周囲の血管等の関係を評価するのにもっとも優れた方法で、より精度の高い脳血管の3次元撮影検査を行い治療方針を決定しております。

治療

脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を起こした患者さんにとって最も危険な事は、再出血です。破裂した脳動脈瘤がもう一度出血する事(特に24時間以内が要注意)は良く知られています。当然、再出血が起こりますと、出血自体による脳のダメージはより重くなります。脳のダメージが重症な場合、残念ながらそれ以降の治療ができない(脳や体が治療に耐えられない)場合があります。そのため「再出血を防ぐ」ことがとても重要です。くも膜下出血の原因の殆どは脳動脈瘤の破裂ですから、この動脈瘤が破裂しないようにすればいいわけです。 再出血の治療は頭を開いて動脈瘤の根元をはさんで止めてしまう開頭クリッピング術(図2を参照)と血管の中から細いカテーテルを動脈瘤内に入れて動脈瘤を金属製のコイルで埋めてしまう動脈瘤コイル塞栓術(図3を参照)があります。くも膜下出血の患者さんの治療は再出血治療を終えると発症後4日目〜14日目に起こると言われている脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)の治療に移ります。動脈瘤の破裂によって脳の周りに出た血液は、約2週間程度の間に次第に分解され吸収されていきます。しかし、血液が分解される過程で、様々な「活性物質」と呼ばれる物質がくも膜下腔内に出てきます。こういった「活性物質(まだ完全には解明されていません)」が脳の血管に作用して血管を収縮させると考えられています。脳の血管が縮んで細くなるわけですから脳に血液が不足してしまい、最悪の場合には脳梗塞となってしまいます。実際に脳の血液が足らなくなってくると、手足の麻痺症状、混乱などの意識障害、言語障害が出てきます。進行を止めることができなかった場合には麻痺や痴呆などの後遺症を残したり、死亡することもあります。 治療としては、血管を拡張させる作用を持つ薬、血液が流れやすくなる様な薬などを点滴したり、血圧を上げて血管が細くても血液が流れる様にしたりします。当院では開頭クリッピング後に頭蓋内にシリコン製のチューブを2本置いて、手術翌日からくも膜下腔の血液を洗い流す治療(脳槽還流療法)を行っております。尚、これでも症状の改善が得られない時には脳血管内治療をおこない、細くなった血管を広げる薬剤をカテーテルから直接脳の血管に注入したり、バルーンで血管を広げる(図4参照)治療を行っております。くも膜下出血は脳脊髄液が流れているくも膜下腔に起こるわけですから、出血の影響で脳脊髄液の流れが障害されて、脳の中に水がたまる水頭症が起こります。「水頭症」は出血直後に起こる場合と、出血から1~2か月(長い場合は半年や1年以上経ってから)ゆっくりと水の流れが悪化して起こるものがあります。治療は溜まってしまった「脳脊髄液」を脳の外に流すようにします。出血早期なら体の外に流し出す「ドレーン」という管を脳室に入れる手術、時間が経過している場合は「腰椎腹腔短絡術あるいは脳室腹腔短絡(シャント)術」という細い管を腰椎や脳からお腹の中まで埋める手術をすれば治療できる事が多いのです。しかし、これらの手術は「異物」を体に入れるわけですから細菌(ばい菌)による「感染」といった問題もあります。

図2-1:大型の前方の動脈瘤なので開頭クリッピング術を行いました。 図2-2:クリッピング術後の写真、矢印の部分が瘤を処置したクリップです。動脈瘤は消失しています。

当院でのくも膜下出血の治療例をお示しします。
58歳女性、突然の頭痛、嘔吐にて当院で救急搬送されました。
頭部CTにてくも膜下出血と診断、直ちに血管撮影を矢印の部位に3mm未満の小さい前交通動脈瘤を認めました。(図3)
そのまま全身麻酔をかけて、動脈瘤コイル塞栓術を行い、動脈瘤の描出はほぼ消失しております。(図4)
術翌日意識はほぼ清明となりました。術後は脳血管攣縮の予防のために、点滴加療を行っていましたが、術後8日に失語症、右片麻痺を認めたために、MRI、Aを行い、脳血管攣縮を考慮し、緊急にて頭部血管撮影を行ないました。左内頸動脈、中大脳動脈、前大脳動脈の強い攣縮を認めました。(図5) マイクロカテーテルから血管拡張薬を投与、バルーンを用いて血管拡張術を施行しました。(図6) 最終的に良好な拡張が得られました。失語、右麻痺は改善し、脳室-腹腔内シャント術を行い、自宅へ退院されました。動脈瘤の再発もなく、現在はお一人で外来通院されております。

図3:矢印が動脈瘤です。
図4:矢印の動脈瘤はほぼ写らなくなりました。
図5-1:矢印の血管に血管攣縮を認めました。 図5-2:血管拡張後です。血管の描出は改善しております。
図6:バルーンを用いた血管拡張術  
 

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