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聴神経腫瘍

神経を包む細胞から発生する良性の腫瘍で、比較的多く認められるもので、時間の経過とともに腫瘍はその場所で大きくなっていきます。報告によると、平均すると年間1-2mmの増大を認めるようです。しかし腫瘍の大きくなる速さは患者さんごとに異なり、きわめて速く大きくなると脳幹の働きが障害されてしまいます。細胞としては良性ですが、腫瘍のできた場所を考慮すると悪性とも言えます。この腫瘍の発生部位は小脳”と“脳幹”(橋と呼ばれる部分)の間にある小脳橋角部です。この部分に“聴神経”(音を感じる神経と平衡感覚の神経)、“顔面神経”(顔を動かす神経)、“三叉神経”(顔の感覚を伝える神経)、“舌咽神経”・“迷走神経”(嚥下や声を出すのに関係する神経)、“外転神経”(眼を外側に向ける神経)に加えて、“椎骨動脈”という太い動脈やその枝が存在しています。この場所にできる他の腫瘍としては、髄膜腫などがありますが、最終的な診断は取り除いた腫瘍を用いた病理組織診断によって行います。

この先は実際の手術写真が含まれている場合がございます。このような写真で気分が悪くなるような方はご覧になるのはご遠慮ください。

症状

聴神経から発生するので耳が遠くなったり(難聴) 耳鳴りやめまいが初期症状です。腫瘍が大きくなると様々な症状が出現してきます。顔がしびれたり曲がったり、物が二重に見えたり、まっすぐに歩こうと思っても歩けなかったり、食べ物をうまく飲み込めなかったり、激しい頭痛や意識が悪くなったりしていくことが考えられます。また、脳脊髄液の流れが障害されて水頭症というような病気を併発します。水頭症が生じると、この症状に加えて、頭蓋内圧の上昇や、視力低下を認めることもあり、早急な治療が必要となります。

治療

聴神経腫瘍が発見された後には、1) 経過観察、2)ガンマナイフなどの定位的放射線治療、3)外科的摘出の3つの選択肢があります。まず腫瘍が小さい場合はMRIなどを撮りながら外来で経過を見ることも選択肢の一つです。腫瘍増大の速度は患者さんによって異なりますが、経過観察を通じて腫瘍の増大が明らかな場合は、治療介入が必要となります。腫瘍が3cmを超える場合は、ガンマナイフによる治療の効果は乏しく、外科的摘出を行うことが重要です。水頭症を伴っているなど、できるだけ早く治療を開始しなければならない場合もあります。腫瘍の根治性という意味では、摘出術が最も優れた治療です。当院ではモニタリングを充実させ、第一目標として顔面神経を回避するために、全例で顔面神経のモニタリングを行なっています。聴力が残存している症例ではABR(聴性脳幹反応)を行い、可及的に聴力を残す方針ですが、脳幹や神経などの重要な組織と強く癒着してはがれない場合はわずかに腫瘍を残す場合もあります。経過観察を行い、腫瘍の増大がみられるか、腫瘍の成長速度が早い例では放射線治療を検討します。放射線治療は入院期間も短く頭を切ることも無いという利点があります。治療を受ければすぐに腫瘍が消え去るというわけではなく、数年の経過で腫瘍が大きくならないことで治療効果を判定しています。最近の報告では、放射線治療の良好な成績が散見されております。また、聴力障害、顔面神経障害の発生も比較的少ないとされています。長期成績については経験が浅いために完全な予測は不可能です。ガンマナイフや他の定位的放射線治療についてのさらに詳しい説明を希望される場合は、実際に治療を行っている施設の受診をお勧めしています。当院で経験した症例をお示しします。38歳男性、一側の聴力障害を放置していましたが、視力低下、身体のふらつきにて当院に受診、頭部MRIでは水頭症を合併しており、聴神経腫瘍が疑われました。(図1-a, b,c)視力低下が著しいためにまず、脳室腹腔内シャント術を施行、シャント後に視力は著明に改善しました。その2週間後に摘出術を行いました。全身麻酔下顔面神経のモニタリングのセッティング後、後頭下開頭を行い、髄液排除後、腫瘍を同定、腫瘍を内減圧しながら、神経刺激しつつ顔面神経の同定を行ないました。小脳、脳幹側との剥離を行い、顔面神経の走行を予想しつつ、丁寧に腫瘍と神経を剥離しました。内耳道の骨削除を行い、内耳道内の腫瘍も摘出、顔面神経を完全に残し摘出しています。硬膜は筋膜にて補填、骨弁も返納して手術を終了しました。術後、顔面神経麻痺は出現せず、視力も改善しており、通常の生活に戻っております。術後のMRIをお示しします。(図2-a, b)

図1-a 左小脳橋角部に赤矢印の様に腫瘍を認めます。 図1-b 内耳道内にも矢印の様に腫瘍がみられます。
図1-c 黄色矢印の様に脳室拡大も認めます。  
図2-a 術後では赤矢印の様に腫瘍は摘出されております。 図2-b 黄色矢印の様に脳室も縮小しております。

 


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