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下垂体腺腫

下垂体部に発生する腫瘍性病変として最も一般的なのものが、下垂体腺腫です。下垂体腺腫は下垂体の一部の細胞が腫瘍化したものです。脳腫瘍中、第3番目に多い腫瘍ですので、稀な腫瘍ではありません。一般的には、青壮年期から老年期に多く発生します。

この先は実際の手術写真が含まれている場合がございます。このような写真で気分が悪くなるような方はご覧になるのはご遠慮ください。

症状

ホルモン過剰分泌による各種症状、視神経圧迫による視力視野障害などが一般的です。稀ですが、下垂体卒中と呼ばれ、腫瘍内に突然出血することがあり、そのような場合には、突然の頭痛および視力視野障害や眼球運動障害などが生じます。下垂体腺腫の診断は何といってもMRIが有用です。特に造影剤を用いた画像の冠状断像および矢状断像が有用です。下垂体腺腫は造影効果の少ない腫瘍として描出されます。また、腫瘍が小さい場合は、造影剤の急速注入下に時間経過とともにMRIを連続して撮影し(ダイナミックMRI)、確実に診断する方法もあります。

治療

下垂体腺腫の治療の原則は、経蝶形骨洞的腫瘍摘出術です。腫瘍の種類、存在位置、大きさ、伸展方向などによっては、開頭腫瘍摘出術が選択される場合もあります。大きな腫瘍であるにも関わらず、トルコ鞍の風船状拡大がないか、あってもわずかな例、鞍隔膜によりくびれが生じ、トルコ鞍上部腫瘍が鞍内腫瘍よりも大きな例、鞍上部腫瘍が硬く、術後数か月経過してもトルコ鞍内に下降しない例、腫瘍が頭蓋内に広範囲に側方伸展している例などです。1週間に1回内服するだけで、血中プロラクチン値を正常化し、腫瘍の増殖を抑える薬剤の使用が可能となりました。そのため、一般的に手術の適応となるのは、手術のみで腫瘍を完全に除去できるような症例、つまり、10 mm以下の小さな腫瘍、あるいはそれ以上の大きさの腫瘍でも下垂体の両側方部に位置する海綿静脈洞という大事な神経や血管が通過する領域に浸潤していないような症例となります。その他、薬剤が無効な例、薬剤を定期的に内服できない例、吐き気などの副作用の為に内服を続行できない例などが手術の適応となります。トルコ鞍の大きさや腫瘍の伸展方向・性状(線維性分に富む硬い腫瘍など)よっては、開頭術を選択する場合もあります。手術的に摘出することが難しい領域(海綿静脈洞内など)に腫瘍が残存した場合は、経過観察しながら、もし、増大傾向があれば、再手術あるいは放射線療法(ガンマナイフ)を施行します。この腫瘍に対しては、有効な薬剤はありません。

手術法

経蝶形骨洞的手術には、上口唇下を切開する方法と直接鼻腔からアプローチする方法に分けられます(図1)。また、手術用顕微鏡を使用する場合と神経内視鏡を用いる場合、およびその両者を併用する場合があります。これらについては、施設や術者により、得意とするアプローチが各々選択されているのが現状です。熟練者による手術成績は、どの手術法を選択しても、それほど大きな相違はありませんので、それらの利点・欠点に関して、よく説明を受けた上で選ぶことも可能です。また、開頭術は、腫瘍の性状や伸展方向に応じていくつかのアプローチがあります。これも施設や術者により、多少の違いがあります。ここでは、当院が施行している直接鼻腔からアプローチする方法を概説します。

a. 術前処置

手術前に耳鼻咽喉科を受診をしていただき、副鼻腔やその他の鼻内の急性炎症の有無を確認し、必要があれば治療を行います。入院後より、両側鼻孔を綿球にて塞いで呼吸、飲水および食事摂取の練習を行います。

b. 手術操作

手術は一般的な気管内挿管による全身麻酔にて行います。左鼻腔の鼻粘膜に鼻中隔軟骨の前縁に沿って逆J字型の切開を加えます。次に、鼻中隔軟骨実質と軟骨膜を剥離します。さらに深部に剥離を進め、鼻中隔の下側を脱臼させ右側に圧排し、鼻中隔を中央に見ながら両側の剥離を進めます。患者の鼻孔の大きさや鼻腔の深さに応じて鼻鏡を選択し、蝶形骨洞前壁まで挿入します。ドリルを用いて蝶形骨洞前壁を開窓します。閉創時の鞍底部形成のために用いるために蝶形骨洞前壁を上手くくり抜きます。トルコ鞍底部をドリルで開窓すると硬膜が見られます。硬膜を十分に切開した後、まず、直視下に見られる腫瘍を可及的に摘出します。次に、側方部やトルコ鞍上部前方あるいは後方に伸展した腫瘍のような通常直視下の摘出が困難な領域に存在する腫瘍に関しては、当院ではオリンパス社製神経内視鏡を用いて、顕微鏡では死角になるところを内視鏡下に腫瘍を摘出します。腫瘍摘出終了後、腫瘍摘出腔には、通常であればスポンゼルという止血用の固形の綿を充填します。髄液の漏れを認めたときは腹部から一部脂肪採取後にこれを充填します。事前に摘出しておいた蝶形骨洞前壁を用いて鞍底部を形成します。鼻鏡を抜去し、鼻中隔軟骨を正中に戻し、切開した粘膜を縫合します。両側の上・中鼻道には軟膏付きガーゼを充填します。軟膏付きガーゼは術後3日目に抜去します。(図2)

図1: 切開 鼻粘膜を逆J型に切開
図2: 腫瘍の摘出
 

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