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未破裂脳動脈瘤

自分の頭の中には動脈瘤がありますと聞いたらだれでも不安になりますが、すべての動脈瘤が破裂するわけではなく、むしろ一生破裂しないことの方が多いのです。動脈瘤がどんなものでどのぐらいの確率で破裂するのかなどについて正確な知識を持った上で、治療を受けるかどうかを決定することが重要です。

この先は実際の手術写真が含まれている場合がございます。このような写真で気分が悪くなるような方はご覧になるのはご遠慮ください。

症状

未破裂動脈瘤は症状がないことがほとんどですが、まれに動脈瘤が脳神経にあたって症状を出すこともあります。このため「目が見にくい」、「物が二重に見える」といった症状で眼科を受診し、精密検査で動脈瘤が発見されることもあります。しかし一般的には無症状で、検査を受けてはじめて動脈瘤が見つかることになります。

ちなみに脳の動脈瘤は年間何パーセントぐらいの確率で破裂するのでしょうか?答えは、年間 0.5%から1%ぐらいです。その中で大型動脈瘤や脳の後ろ(後頭蓋窩)に位置する動脈瘤はこれより高い確率で破裂すると言われています。ある人に動脈瘤が見つかったとして、その生涯の動脈瘤破裂率を計算してみましょう。例えば、50歳の女性に動脈瘤が見つかったとします。女性の平均寿命は80歳後半です。つまり単純計算では余命30年以上あるはずです。その人の動脈瘤の年間破裂率が0.5%とすると、0.5% × 30年 = 15% となり、生涯の推定破裂率は15%ということになります。一方、もし動脈瘤が大きくて破裂率が3%の場合には、3% × 30年 = 90% となり、生涯の推定破裂率は90%となります。

もちろんこのような単純計算でその人の動脈瘤の真の動脈瘤破裂率が分かる訳ではありません。あくまで推定です。しかし治療を受けるかどうかの判断材料として一つの目安にはなるでしょう。以上のように脳動脈瘤が見つかったからといって、すべて治療が必要なわけではありません。

診断

MRA

MRA:最初に外来や脳ドックで行われる検査です。(図1)

MRIのうち、血管だけを見る撮影法です。造影剤を使わずに動脈瘤があるかどうかがある程度分かります。

図1-1:矢印が動脈瘤です。 図1-2:矢印が動脈瘤です。

CTA(CT angiography)

CTA:MRAの次に行われることが多いのがこのCTAです。(図2)

最新の機種では、動脈瘤の3次元画像を写し出すことが出来ます。造影剤を点滴しながら行いますので副作用としてアレルギーを起こす可能性がわずかにあります。

図2:矢印が動脈瘤ですが、血管の構造が立体的に分かり、頭蓋骨との関係も評価出来ます。

脳血管撮影

脳血管撮影:最終診断として行われる検査法です。(図3)

足の付け根の大腿動脈又は肘の内側にある上腕動脈からカテーテルと言われる管を頚動脈や椎骨動脈と言われる血管まで入れて、そこから造影剤を注入して行う検査法です。カテーテルを入れるリスクがありますが、最も確実な診断法とされています。

当院では治療方針を決定する為に、基本的には全例行っています。当院の血管撮影件数は年間約200件前後で推移しております。当院ではPhilip社の最新血管撮影装置を導入しております。3次元撮影はもちろんのこと、モニター画面上で自由に回転させながら目的の血管や病変を詳細に観察することが可能です。

図3-1:矢印が動脈瘤です。 図3-2:3D-DSA(血管撮影の機械を回転させて血管を立体的につくった画像)

治療

未破裂脳動脈瘤の治療には、経過観察(様子を見ること)、開頭手術(クリッピング)、脳血管内手術(コイル塞栓術)の3つの選択肢があります。動脈瘤の破裂率と患者さんの年齢、治療法リスクによって治療法が選択されます。

1. 経過観察(様子を見ること)

未破裂脳動脈瘤では半年か一年ごとに、外来でMRI(MRA)を行って、動脈瘤の形が変化したり、増大していないか確認します。しかし実際には動脈瘤の形やサイズの変化がないまま破裂することもあり、定期検査を行っても完全に破裂を予知できないこともあります。このことを知った上で経過観察を選択すべきです。現在、日本を含めて世界的に未破裂脳動脈瘤の登録調査が行われており、部位や大きさと破裂率の関係が徐々に明らかになってきています。

2. 開頭手術(クリッピング術)

最も確実な治療法で、長い歴史があります。
破裂動脈瘤と同様、頭の骨をあけて顕微鏡を使って脳のすきまを広げ、動脈瘤の根元にクリップをかける方法です。破裂していないため脳には全く出血がなく、ほとんど脳を傷つけずに動脈瘤の処置が出来ます。未破裂脳動脈瘤においても頚部の広い動脈瘤や動脈瘤から枝がでているような例ではクリッピングが最善の治療法となります。治療の難しいケースではバイパス術を併用することもあります。この治療の利点は動脈瘤の処置が完全なら、再治療がまずいらないこと、従って退院後の外来通院が短期間で不要となることです。

図4-1:矢印が動脈瘤です。 図4-2:術後、矢印の動脈瘤は写らなくなっています。
図4-3:クリッピング中の風景、矢印が動脈瘤です。 図4-4:矢印のクリップが瘤を挟んでいます。
図4-5:当院ではオリンパス社、ライカ社の2種類の顕微鏡を用いて、蛍光色素(インドシアニングリーン)を注射して、術中に血管の評価を行っています。  

3. 血管内手術(コイル塞栓術)

未破裂脳動脈瘤においても、頭を切らない脳動脈瘤治療が行われています。
頭を開けることなく動脈瘤の治療が出来るため、患者さんの体にやさしい治療です。ただし未破裂脳動脈瘤ではクリッピングの治療成績も良好であるため、症例毎にどちらの方法が良いかを検討し、治療方針を決定するべきだと思います。
破裂動脈瘤と同様、未破裂脳動脈瘤においてもコイル塞栓術においては動脈瘤の頚部の広さが治療の難易度に大きく関わります。

未破裂脳動脈瘤においては、頚部の広い動脈瘤に対して、より積極的にバルーンカテーテルやステントの併用が行われつつありますが、やはり頚部の狭い動脈瘤、クリッピングの難しい動脈瘤がもっとも良い適応であることは変わりありません。当院で経験した症例をお示しします。48歳男性、頭痛のため他院でMRAが施行され、脳動脈瘤を認め、当院で血管撮影を施行しました。前脈絡叢動脈分岐部に動脈瘤を認めました。(図5)この動脈は運動神経をつかさどる部位に栄養を送っており、この血管の虚血は重い運動麻痺を引き起こします。そこで、運動神経モニターを治療中に測定し、前脈絡叢動脈の虚血が予測できるようにしております。当院では開頭クリッピング術のほぼ全例に施行しており、コイル塞栓術では症例毎にモニタリングを行なっております。コイル塞栓術を行い、矢印の血管の描出も良好で術中モニターも問題ありませんでした。経過良好で社会復帰されております。

図5-1 赤矢印が動脈瘤です。運動神経のモニターを行いながらコイリングを行いました。黄色矢印の血管は前脈絡叢動脈です。
図5-2 矢印が瘤内に留置されたコイルです。黄色矢印の前脈絡叢動脈の描出も良好です。

4. ステントを変容したコイル塞栓術

脳動脈瘤の治療については従来通り、開頭クリッピング術と開頭せずに動脈瘤内にプラチナコイルを留置し瘤内を血栓化させるコイル塞栓術を症例毎に年齢、動脈瘤の部位、大きさ、形態より検討して、治療を行っております。しかし、10mmを越える動脈瘤、頚部が広い動脈瘤のコイル塞栓術では再発の可能性が高いことが分かっております。 当院では大型脳動脈瘤など治療が難しい症例に対しては、脳動脈クリッピング術かステントを併用したコイル塞栓術のどちらが適切か症例毎に検討しております。脳血管内治療においては、新しい血管撮影装置(Philips社)を導入し、血管やステントなどの画像の描出が向上したため、2012年からステントを併用したコイル塞栓術が安全に施行できております。

当院で行った症例を4例お示しします。
57歳、男性、後頭部痛にて当院に受診し、MRI,Aにて約10mm程度の動脈瘤を認めました。頭部血管撮影では右椎骨動脈に動脈瘤を認めました。(図1,2) LVISというステントを併用したコイル塞栓術を施行し、通常の生活に戻られております。当院の血管撮影装置Philips社Allura clarifyを用いてステント留置後のステント、コイルの状態を評価しております。(図3,4) 問題点としては、2剤の抗血小板剤を内服(約6ヶ月)し、その後1剤の投与を継続する必要があるので、出血などに注意が必要です。この方は、約2年経過しますが、有害事象などは発生しておりません。

図1: 右椎骨動脈瘤を認めます。 図2:
図2:ステント(青色)とコイル(黄色)の評価が可能です。 図4:治療後の血管撮影では動脈瘤内には血流はほぼ見られておりません。

2例目は58歳、女性、1年前より右視力低下、4ヶ月前から視野障害あり、頭部MRI,Aにて視神経を圧迫するように、20mm大の右内頸動脈瘤を認めました。頭部CTA、血管撮影を施行しました。(図1,2 ) 治療方針に関しては、動脈瘤による圧迫症状が認められているために、開頭によるクリッピングを行いました。図のように、2つのクリップにて動脈瘤は完全に消失しました。(図3,4) 現在は視力、視野障害は改善し、通常の生活を送っております。

図1:赤矢印は大型動脈瘤です。 図2:CTAでも矢印のように大きな動脈瘤を認めます。
図3:黄色矢印はクリップです。 図4:黄色矢印の動脈瘤は消失しております。

3例目は67歳、女性です。数日前から後頭部痛、ふらつき強く他院でMRI,Aを行い、矢印の様に脳幹に食い込む様な一部血栓化を伴う動脈瘤を認めます。(図1,2,3)この様な動脈瘤は瘤から母血管まで閉塞するのが理想的ですが、動脈瘤から母血管から穿通枝という通常の撮影では同定し難い血管が出ているときには脳梗塞を併発し後遺症が残ります。当院での血管撮影装置(Philips社Allura Claryfy)では特殊な撮影を行い、コンピューター上で画像作成すると細かい穿通枝まで描出でき合併症を避けることができます。(図4,5,6)

図1:術前MRI:赤矢印の様に大きな動脈瘤が脳幹を圧迫している。 図2:術後10ヶ月、動脈瘤は縮小している。
図3:血管撮影では瘤の一部が写り、その他は血栓化している為に造影されません(赤丸)。
図4:矢印の様に細かな穿通枝が出ていることが分かります。 図5:40本のコイルを瘤内と椎骨動脈に留置しました。
図6:動脈瘤内に血流はみられず、矢印の穿通枝も残っています。

最後の症例です。60歳、男性です。頭痛、めまいにてMRI,Aを行い脳動脈瘤がみつかりました。治療の検討をおこなうために、当院のPhilip社Allura Claryfyという装置で血管撮影を行いました。(図1,2,3,4)

図1:血管撮影にて大きな脳動脈瘤をみとめる。 図2:3D撮影にて血管径も正確に測定できます。
図3:ステントを上小脳動脈に入れて動脈瘤はうつらなくなりました。 図4:バゾCTというステントを評価する方法でステントの開き、血管との密着を評価可能。
 

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